されど罪人はリュークと踊る ◆wKs3a28q6Q氏

「なっ……」
俺は運が無いと思う。
海岸で平和に遊んでたら自殺未遂者拾っちまうし、テラからやってくるのにロクな奴がいねぇし。
あと、朝起きると悲惨なことになってたりする。ラーメン口ん中入ってたり周りみんながパンチだったり。
━━いや、今の状況に比べたらあの程度の出来事は“悲惨なこと”には含まないのかもしれない。
「う……そだろ……っ」
朝起きたら知らない場所にいて、いきなり殺し合いをしろと言われ、そして首から上が弾け飛ぶ光景を目の前で見た。
かなりグロテスクな光景に吐き気を催したが、幸いにも胃の中の物を出してしまう前に転送が始まった。
そして比較的安全そうな建物━━神殿にもたどり着けた。ここまではまだ良かったんだ。
「う、えぇっ……なん、で………」
神殿の入り口に誰かが倒れていた。
おそるおそる近付いて、下半身を失ってることに気付き、今こうして壁に向かって嘔吐をしている。
「……畜生……」
涙と吐き気が止まらない。そんな自分に腹が立った。
母さんやみんなが死んでしまったあの日、ボスとして島の仲間を守ってみせると誓ったじゃないか。
もう誰も死なせはしないと……
(畜生……)
まだ二時間もたってないのに、早くも人が死んでしまった。
ただ逃げ回ってただけの僅かな時間で━━
(俺は、何にもできないのか……?)
目の前の人間だった者━━いや、元から人間ではない“何か”だった者の目を閉じてやろうとゆっくりと歩み寄る。
綺麗に切り裂かれた腹部。抵抗の痕がないことから、一撃で命を奪ったものと思われる。
━━相手が人間じゃなかったから、殺すのに躊躇をしなかったのだろうか?
生物兵器を失敗作だからと躊躇うことなく地上に棄てるテラの連中と同じように。
(許せない、よなぁ……)
ジャイアニズム溢れるワガママなボスでも━━いや、むしろジャイアニズム溢れるボスだからこそ、こんな状況にだけは屈するわけにはいかない。
(終わらせなくちゃな……)
死者の目を閉じ、ゆっくりと息を吸い込む。恐怖を乗り越え主催者に立ち向かうために、弱い心を叱りつけようと。
「上等だ……やってやる!」
皮肉な程青い空を睨みつけ、弱い心とふざけた主催者を怒鳴ってやった。
「俺は負けねぇぞ、絶対ぶっ倒してやる!」
「うぉぉぉぉッ!」
それがいけなかったのかしらん。青い髪の毛の小柄な男が凄い早さで迫ってきたがな。
あぁ、そういえばサミアドのため100年生きるって決めた時もこうやって叫んだっけ━━
「って、死んでたまるかぁぁぁッ!」
上映直後の走馬灯を振り切って、振り下ろされた棒を横っ飛びで回避する。
相手は不意をついても攻撃を外す程度の実力者━━おそらく使い馴れない武器なのだろう。リュークの腰にも剣は刺さっていないし、使い慣れた武器は没収されたと思われる。
地面を砕いたその棒が今度は薙ぎ払う形で襲い来るが、勢いのままに横転していたためこれも空振り。
どうやら相手は完全にやる気らしい。
(クソ……ッ)
リュークはポケットに手を入れソレを握り締める。
一見武器には見えないが、もしかしたら何か特殊な力があるのかもしれない。
意識をポケットの中から再び相手に向け━━棒の先端が迫っているのに気付いた。
「うわッ」
とっさに顔を守るよう両手を眼前に持ってくる。
相手が素人ということもあり棒がリュークの頭部を貫くより早く手を構えることができた。



「な、なんでぇ……!?」
棍で襲い掛かった青髪の男━━ゴエモンは、予想外のことに目を丸くした。
相手の男は、棍を掌でガードした。
だが、そんなものお構い無しに突いた。力を緩めず突いたのだ。
にも関わらず、目の前の男は衝撃で倒れることもなく、手の骨が砕けたようにも見えなかった。
男の掌に収まるサイズの石ころが、棍の衝撃から男を救ったのだ。
「あ、あぶねェ〜〜ッ!」
男は頬を伝う冷や汗を拭いながら威力を殺した棒を掴む。
あの死体の者からも、こうやって武器を取り上げ殺したのだろうか?
それとも奪った武器がこの不思議な石ころなのだろうか?
「てやんでい……殺人鬼なんかに負けるわけにはいかねぇのよ!」
視界の端に映る惨殺死体。
からくり忍者を友に持つゴエモンにとって、人間でない者の命も人間の命も同じ“命”。
命を奪った挙句高らかと優勝宣言をした者を放っておけるほど、ゴエモンは冷たい男ではない。
多くの者の未来のために、戦えない弱者のために、殺し合いに乗った者は倒さなければならないのだ。
「うぉぉぉぉぉっ」
気合を入れ、無理矢理棍を手前に引く。
棍を握った男の体が宙に浮き、そのまま地面に倒れこんだ。
「てりゃぁぁッ」
うつ伏せに倒れた男の脳天をカチ割ろうと棍を振り上げ、そして━━
「がぁつ……!?」
突然の顔面に衝撃が走り数メートルほど吹き飛ばされた。
何が起きたのかはわからない。だが、それがあの男の奥の手によるものだということはわかった。
慌てて起き上がり、回れ右をして撤退する。吹き飛ばされた拍子に手から離れたデイパックを回収している暇はない。
今は逃げて、キセルを手に入れるかこの棍に慣れるかしてから再戦しなくては勝機はない。
(畜生……)
だから、逃げる。無様にも、この先も誰かを手にかけるかも知れない男に背を向けて。
(畜生……ッッ)
己の無力を噛み締めながら、ゴエモンは追撃が来る前に射程距離から離脱した。
正義の大泥棒は、屈辱的にも敗走を強いられたのだ。



ゴエモンは三つほど過ちを犯していた。
一つは、リュークが殺人者だと思ったこと。
一つは、先程ゴエモンを襲った気の塊━━不意を突かれたためそれが何であったかゴエモンにはわからなかったが━━を撃ったものがリュークだと思ったこと
そして最後の一つが、あの場には死体を除いて二人しかいないと思い込んでいたことだった。
「ひょひょ……あの棍は間違いなくビリーのだったね」
のそのそと神殿から出てきた男、チン・シンザンは笑みを浮かべていた。
先程の戦闘に用いられていた棍は十中八九ビリーのものだろう。
つまり、クラウザー様の元にいたとき散々好き勝手やってくれたあの男は、現在牙を失っているのだ。
直撃した割には元気だったあの男には、頑張って生き延びてもらおう。多少は武術の心得があるようだし、ビリーを殺害するまでは棍を所持していてもらいたいところだ。
本当なら自分が所持するのが一番なので、先程の戦闘ではわざわざ援護をしてまで見るからに弱そうな男の方を勝たせようとしたのだが……
「まさかあの場で逃げることを選ぶとはね」
折角のチャンスを殺害ではなく逃走に使ったあの男。
本来なら生き残った雑魚を難なく殺して奪い取る予定だったのに……
まぁいい。とりあえず互いに殺人者だと誤解してくれているようだし、今のところは放っておいていいだろう。
それよりも今は体を休めなくてはいけない。
首輪による制限なのか、爆雷破など気の塊を作り出す技は使うと過剰に疲労が溜まるらしい。
まだ動けないほどではないが、先のことを考えると今は体を休めた方がいいだろう。
能有る鷹は爪を隠す。必要な時にのみ爪を出せばいいのだ。
「ひょひょ……優勝するのはこの私ね」
デイパックを拾い上げ、自ら作り出した死体を一瞥する。
この死体は大切な餌だ。
こいつに気を取られている隙に相手が一人なら殺害し、別方向から複数人が来るようなら殺しあってもらえばいい。その場合は勝ち残ったものを自分が殺せばいいのだ。
この作戦には多くの穴がある。だが、シンザンには頭脳だけでなく力もあるのだ。
現に最初に殺したものも戦略と爆雷破の力によって倒すことが出来た(不意打ちまでかけたのになかなか手こずるはめになった。あんな化け物との正面衝突は極力避けたいものだ)
最も、その力がすべての穴をカバーしきれるのか、今はまだわからないのだが……



「はぁ……はぁ……お、追ってきてないよな……」
木に手をつき、汗と一緒に口元を拭う。まだ口元に残っていたゲロが袖に付いたので、木の幹にゲロを擦り付ける。
(へへ……待ってろよ、マリア、キッチェ……絶対に生きて帰るからな)
青い髪の殺人犯は許せない。失われた見知らぬ命を悲しむ気持ちも有る。
だが、それ以上にリュークの心は希望に満ち溢れていた。
説明書の付いていなかった支給品の石ころは、脱出の切り札になりえる凄い物かもしれないのだ。
実際、殺されると思ったときも、『死にたくない』と思ったら突然相手が倒れた。
おかげでこうして逃げ出すことができた。
逃走中に後方を確認したところ起き上がっているようだし、ありがたいことに殺傷能力も無いらしい。
(これさえあれば、さっきの奴みたいな殺人鬼と遭遇しても何とかなる……仲間を集めて脱出できるかもしれないッ)
ようやく掴んだ小さな希望。
それが、自身の勘違いだと知る由もなく、リュークの仲間探しが幕を開けたのであった。


【G-04 13:42】
【ゴエモン@がんばれゴエモン】
[状態]怒りと無力感を同時に感じている 頭部から大量出血 疲労
[装備]ビリーの棍@餓狼伝説
[道具]無し
[思考]1.ゲームに乗った者の打倒(セップク丸・リューク優先)
    2.主催者の打倒。
    3.念のため神殿からもう少し離れる。
[備考]※リュークが鋼丸を殺害したと思っています。

【F-04 森の中 13:50】
【リューク@海の大陸NOA】
[状態]疲労
[装備]マイケル・マックスの頭蓋骨より硬い石@餓狼伝説
[道具]支給品一式
[思考]1.テイオーを含めゲームに乗ってない者を集め、島を脱出する。
    2.石の持つ力を使いこなしたい。
    3.ゴエモンを警戒。仲間ができたらゴエモンの特徴を伝え、被害を減らす。
[備考]※ゴエモンが鋼丸を殺害したと思っています。
    ※マイケル・マックスの頭蓋骨より硬い石に凄い力が眠っていると思っています。

【F-03よりの神殿内部 13:40】
【チン・シンザン@餓狼伝説】
[状態]極度の疲労
[装備]ヤエの刀@がんばれゴエモン、双眼鏡
[道具]三人分の支給品
[思考]1.使える武器がある程度揃うまで待ち伏せ戦法。
   2.優勝する

【鋼丸@武者頑駄無超機動大将軍 死亡】
【残り 45人】

[備考]
マイケル・マックスの頭蓋骨より硬い石は硬いだけで何の効果もない掌サイズの石ころです
棍の扱いに長けたビリーの技をも防げますが、何度か防ぐと普通に壊れます
特殊効果は一切ないため、石以外の部分の防御力向上などの効果はありません
あくまで硬いだけの石ころです


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【リアル脱出マジック】