「………ん?何だこの曲?」
誰かがそう呟くとともに、聞いたことのない歌がこの空間━━四方は普通の壁で囲まれていて、その中で二枚の透明な壁で仕切られたこの空間は恐らくは何かの“部屋”だろう━━に響きわたる。
「………レクイエム、か」
誰かが呟く。音楽がよりいっそう激しくなった。そこにいる者は皆、自然と音源のある方に目を向けている。
先程目にした光が、一人の覆面男を送ってくる。
「はい、ミュージックストーップ」
音楽が停止すると共に、音のしていた方━━仮にそっちを前としよう━━にある扉から数名のスーツを来た男が数名現れた。
「誰だ、アイツ……」
「お、お前はッ……」
「なんなのいったい……」
「はいはい静かに静かに。わしのことを知っておる者もいるだろうが、自己紹介しておくよ。わしの名は大納言」
忍者っぽい服の奴が、拳に力を込めてるのが見える。顔見知りなのだろうか?
「えーっと、何から話そうか……」
「おい」
「ん?」
「アンタが俺達を呼んだってのか?」
先程見えない壁を殴りまくってたアメリカンな兄ちゃんが、大納言と名乗る男に上から物を言うように質問する。
大納言はあっさりと首を縦に振った。
「バーンナックルハリケーン!!!!」
アンタホントに言葉より先に手が出る人間だな。いい歳こいた大人の対応とはとてもじゃないが思えない。
そんなアメリカンな兄ちゃんを見て、大納言は楽しそうに笑った。
「ふふ……」
避けるどころか驚いて身をすくめることすらしない。
無抵抗の大納言めがけてアメリカンな兄ちゃんが繰り出した何やら凄そうなコークスクリューパンチのような技が、大納言に届くことはなかった。
見えない壁をぶち抜いたうえで殴り飛ばすつもりだったのだろうが、見えない壁はアメリカンな兄ちゃんの放った拳の威力を全て吸収したのだ。
「何ィーッ!?」
「無駄だ。大納言様の障壁を壊すことなど、力を制御された今の貴様ではとうてい無理なんだよ、テリー=ボガードくん」
スーツの男が、テリーと呼ばれたアメリカンな兄ちゃんに冷たい視線を送る。
「ナメやがって!」
再び見えない壁に突っ込もうとするテリーを、テリーと同じエリアにいた奴数人が押さえ込む。
その光景に気を取られず、スーツの男が何気無く口にした“力を制御された”という言葉をしっかりと頭に叩き込んだ者が何人いるかはわからない。
少なくともリュークはさらりと聞き流していた(もっとも、制御されるほどの戦闘力は生憎持ち合わせていないためさほど影響はないが)
「あぁ、彼等は気にしないでいいからね、雑兵みたいなものだから」
十数人の雑兵が壁を背に一列に並んでたら普通は気にすると思うのだが。
「えーっと、みんな何が起こってるのか知りたいと思うから先に教えとくね」
そう言って指を鳴らす大納言。
それと同時に全員の首に首輪が出現し装着されたのだが、人が出現した時よりも光が小さく一瞬の出来事であったため、大納言の方に集中するリュークは首輪がつけられたことにも気付かなかった。
他にも怒りで冷静さを失っているテリーや衣服で首輪が隠れた全身青づくめ泥棒ルックの男なども首輪をつけられたのに気付いていない。
もっとも、大半の者は首元に感じる冷たい感覚や前にいる者の首に先程までなかったはずのものが現れたことから首輪の存在に気付いたが、大納言の口から発せられる言葉の方が重要だと判断したいして気にしなかった。
「今日はちょっとみんなに殺し合ってもらおうと思ってね」
………はい?今なんって言ったこの覆面?
殺し合い?
いや、さすがにあんな楽しそうにそんなことは言わないだろう。きっと違う字を使うもっと明るい何かに違いない!
殺し愛……故ロシア位……頃試合……んー、ダメだ。何も思い付かない。それじゃぁやっぱり、コロシアイっていうのは……
「ルールは簡単、最後の一人になるまで殺し合うだけー。基本的にこっちの邪魔しない限り何をやるのも自由でーす」
「ふざけんじゃねぇ!」
ゴウッ、と音を立て大納言めがけて金色に輝く小判が飛んでいき、やはり見えない壁に阻まれ墜落する。
「そんなふざけたこと、このゴエモン様が許さねぇ!」
ゴエモンと名乗り、大きなキセルを回しタンカを切っているのは先程大声をあげて見えない壁に激突した青髪の男だ。