OP前編(仮) ◆wKs3a28q6Q氏


「……というわけで、この生物兵器の失敗作を棄てておいてくれたまえ」
「しかしこのスプー、食傷気味とはいえある意味成功作なのでは……」
考えただけで神経性胃炎になるくらい遠い未来、空にはテラという天空都市が存在した。
その天空都市を総括しているのが、黄色い化け物の失敗作を部下に破棄するよう命じた眼鏡の青年・ミカエル=シャークマン。
ガンダム製作から脳移植、さらには天候を操る機械まで手広く手掛けてきたシャークマンにとって、理解不能な事象など一切なかった。
………失礼。訂正させてもらおう。世界で唯一の陸地サンクルスに住む脳天気な連中の思考回路は理解できない(したくもないようだが)
そのテラのことならほぼ全てを理解しているシャークマンでさえ理解できない不可解な自然現象が、サンクルスとテラを同時に襲った。
「な、なんだこの揺れは……!?」
地上を移すモニターの方に目を向ける。
地上サンクルスでは、住人がこぞって謎の地震に慌てふためいていた。
「バカなッ、天空都市にまで影響を及ぼす地震などあるはずが………」
地上だけでなく、天空都市にまで影響を与える地震など、ありえない。
本来ありえないのだが、現にこうして起こってしまっている。
「ようやく止みましたね……今のはいったい………」
しかし、ミカエル・シャークマンがその地震の謎を解くことはなかった。
「あれ?博士?」
研究室、更にいうなら天空都市テラから、ミカエル・シャークマンは忽然と姿を消した。
彼だけではない。同時刻に地上サンクルスからも数名の者が……それ以外にも“異次元の過去の世界”━━例えば異なった二つの次元の江戸時代━━などからも、謎の地震が起こると同時に数名の者がその世界から姿を消すという不可解な事件が起こっていた。
そして、地震と同時に姿を消した違う世界の違う時間を生きていた彼等は、謎の部屋で会することとなる。「ねぇ……ねぇ、起きて。大丈夫?」
サンクルスのボス・リュークは夢を見ていた。
はっきりとは思い出せないが、今は亡き母親の夢だったと思う。
何故か悲しそうな顔をする母親の顔は、何者かに起こされた瞬間不気味な馬型生物兵器・ドーカイテイオーのドアップへと変わった。
「うわぁぁぁぁッ!?」
「とりあえず無事みたいね」
「ね、言った通りでしょ?アヤメやその前に来た人達も最初は眠ってたけど、みんなすぐに眼をさましたって」
リューちゃんリューちゃんと連呼し、唇を突き出しながら暴れるドーカイテイオーの下半身を押さえ付ける少年が、リュークを起こした少女に話しかける。
いっぱいいっぱいといったようにテイオーを羽交い締めにする少女が、次いでリュークに話しかけた。
「あの、この馬は、貴方の知り合いですか?」
「そうよ、リューちゃんと私はイタリア人の顔よりも濃ゆ〜〜い仲なのよ!」
「………認めたくないけど、ハムより薄い繋がりの知人です」
頭を押さえ、溜め息を吐くリューク。
それを聞き、少女と少年はホッとしたようにテイオーを解放した。
どうやらこの人達は悪い人ではない。
目覚めた後にも関わらず目覚めのキスをかまそうと飛び付いてくるテイオーを右フックで撃墜しながらリュークはそんなことを考えていた。
「リューク!?」
「アレックス!」
少し離れた場所に顔見知りのアレックスを見付け、見知らぬ場所に連れてこられた不安を紛らわせるため駆け寄ろうとして
「ダメッ!」
がい〜ん、と見えない壁に顔面から直撃した。
「りゅ、リュー……ク?」
「あー、来たばっかりだから知らなくて当然なんだけど、なんか見えない壁があるっぽいんだよね、こことあそこに」
先ほどテイオーを押さえつけていた少年が目の前の空間を指差し、ついで後方を指を差す。
指を差した方向に、緑色の髪をした巨体の男が握り締めた右手を腹に置き、さらにその右手に左手を重ね合わせた奇妙な姿勢で眠っていた。
「…………?」
男が、ゆっくりと瞼を開ける。
「は……はは……そうか、究極のスポーツ切腹を成し遂げた途端ここに来たということは、ここは殿堂入りした者の集う場所なのかぁーッ!」
脳味噌まで筋肉に侵されてるんだろうか、どう見ても関わらない方が得策の電波さんみたいだ。
自分を起こしてくれた人物があんな電波なマッチョメンでなく、美少女だったことを無宗教ながら神に感謝した。
「ねぇ、兄ちゃんは名前なんっていうの?オレは斉木陽……
「てめぇェーッ、切腹丸ゥーッ!」
テイオーの下半身の男の子━━唇の危機を救ってくれた少年を形容するにはいささか失礼な表現か。よく聞こえなかったがサイキョーだかなんだかって名前の目の前の少年、と言い直そう━━の声を掻き消すくらいの大声を張り上げ、青い髪の男が
「ぐぁッ」
リュークの激突したものとは別の見えない壁に顔面から激突した。
よく見ると鼻にティッシュを突っ込んでる奴までいるので、見えない壁に衝突というのはここにいる大半の者が経験してるのだろう。
「ななななな……ッ!」
アレックスの間抜けな声に視線を戻し、大きく目を見開いた。
「何!?何が起こってんの!?教えて最長老様ッ」
「よくわかりませんが落ち着いてください」
「兄ちゃんもああやって出て来たんだよ」
不思議な光の線が、弧を描きながらゆっくりと上昇している。
そして、光の線の通った跡には、人間の足と思われる二本の柱が。
光はどんどんと上昇を続ける。
ようやく光が消滅した時、そこには青い服━━それも「その格好、逆に目立ちまくってませんか」と尋ねたくなるコテコテの泥棒衣装━━を着た小太りの男が立っていた(といっても、眠ったまますぐにドサリと崩れ落ちたのだが)
なるほど、どうやら皆このようにして送られてきたらしい。

送られる。

頭の中に浮かんだその言葉に、リュークはようやく疑問を持った。
「なぁ、これいったい誰がやってるんだ?」
“送る”という言葉は、送り主がいて初めて成り立つ。
誰が、何のために自分達を転送してるのか。
気にするなという方が無理な話だ。
「さぁね。一応アヤメの知り合いの人とか何人かがいろいろと調べてるみたいだけど……」
言われてみれば、見えない壁に触れたり叩いたりしてる奴や、いろんな奴に話を聞いてる奴がいる。
他にもアヤメのように現れた人を起こす者や、見えない壁越しに知人と会話する者、壁にもたれ周りを観察する者━━━
(あれ……?)
壁にもたれかかる眼鏡の青年。リュークは彼を見たことがある気がした。
(でも、どこで……)
少なくともサンクルスの島民ではないし、どいつもこいつも同じ格好のアレックスの部下でも多分ない。
ということは、テラの人間だろうか?
「あ、おいリューク!」
「あれ?兄ちゃんどこ行くの?」
「悪い、ちょっとやることできた。さっきはありがとうな」
右手を顔面の前で立て、サイキョーだかなんだかって名前の少年に礼を言い、見えない壁にぶつからないよう注意しながら小走りに見えない壁ギリギリのところまで行く。
何かわかるかもしれないと思い、眼鏡の青年に話しかけたリュークの見知らぬ者と、相手の目も見ず淡々と口を開く眼鏡の青年の会話を盗み聞きしようと耳をすます。
「起きろエビス丸!セップク丸の野郎だ!」
「ではやはりそっちでも地震が……?」
「ねぇ、ここどこなの?」
「ふぁぁ………ん?なんだぁ?」
なんだかいろんな奴の声のせいで、眼鏡の青年が何を喋ってるんだかまったくわからない。
「メタビー!おい、メタビーッ!」
「うっおーっ!!くっあーっ!!」
あまりのうるささにチラリと横目で声のした方を見る。
眼鏡の青年や緑髪のマッチョと同じエリアで、帽子を被ったアメリカンな兄ちゃんがドンドンと見えない壁を殴りまくっている。
その向こうに時計に向かって叫ぶ少年も見えたが、こちらは何がしたいのか見当もつかない。
「ざけんなーっ!」
アンタがな。いい歳した大人なんだから少し黙っててくれないかなぁマジで。
「パワーエルボーッ!」
落ち着け俺。あの声を耳から排除して他の声を拾うんだ。
「リュゥゥゥウゥちゃぁぁあぁぁぁあぁんッ!!」
「なぁーッ!?」
突然背中に感じた重みと、嫌と言うほど聞きなれたバカ声が聞こえてくる。
「鼻血ッ鼻血止まらないわーッ!乙女なのにぃーッ!ヒロインなのにぃーッ!」
ドカッ!
(………?)
いつものノリで全力で殴ったはずなのに、いつものようにテイオーがブッ飛ばない。
よく考えれば、鼻血もすぐに止まるテイオーが鼻血出しっぱなしというのもおかしな話である(まぁ、そんなことを言ったら生物兵器が血を流すこと自体おかしいわけだが)


【OP中編(仮)】
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