マッチョ様が魅せる ◆wKs3a28q6Q
「ふははははは!」
さわやかな(?)男の雄叫びが、澄みきった夜空にこだまする。
殺戮劇の舞台に立ったセップク丸が、今日も何も考えてないような満面の笑顔で、背の高い木木をくぐり抜けていく。
恐れを知らない心身で目立つのは、深い緑の頭髪。
持ち前の筋肉は殺さないように、気高いスポーツマンシップは破らせないように、真っ正面から叩き潰すのが彼流のたしなみ。
もちろん、本来なら大声で高笑いなどといった、自殺行為をする者など存在していようはずもない。
ハラキリ=セップク丸
あらゆるスポーツを極めたこの男は、もとは純粋にスポーツをするために鍛えたという、正真正銘のスポーツマンである。
D-1。身を隠すにはもってこいの緑の多いこの地区で、ゲームに乗るつもりで、D-2からとりあえず塔に向かう緑髪の筋肉達磨。
時間は少し遡り、このゲームが幕を開けてから九十分ほどたっただけの序盤とはいえ、周囲のエリアに誰かがいれば自身の大声が思いっきり聞こえ居場所がバレる、という危険を冒しているのに気付かない馬鹿野郎である。
━━━時間は、そのゲーム開始から九十分たった13時半頃まで遡る。
D-02の背の高い木木に囲まれた場所からスタートのセップク丸は、その顔に笑みを称えていた。
彼にとってこの殺戮ゲーm
「そうか……なるほど……ははははは!そういうことかァ!俺は選ばれたんだなァ!」
……彼にとってこの殺戮ゲームはスp
「あの青髪の男が切腹を上回る究極のスポーツを教えてやると言った途端飛ばされた……ふふ、つまり究極のスポーツとはこれのことだったのだ!」
……聞いてもいないのに語り出してるので、敢えて彼がこの殺戮ゲームをどう捕えたのかは割愛させていただこう。
とりあえず興奮しすぎだから少しは落ち着け筋肉達磨。
「切腹を究極の個人種目だとしたら、これは究極の団体種目といったところか……」
たった一人の優勝の座を争うなら個人種目だと思うが、切腹をスポーツとか言ってる奴に教えても無駄な気がするので流すことにする。
とにかく、セップク丸は【明るく楽しくロワイアル】という丸っこい文字とハートマークで彩られた表紙のふざけた冊子を地面に放り、鞄の中から支給品とやらを取り出すことにした。
ちなみにその冊子は一応全員に配られており、大納言のした簡単な説明ではなく、ルールの細かなこと(見方がわからない者への配慮か、御丁寧に地図の見方やコンパスの使い方などもあった)が記載されている。
もっとも、無駄に文字が細かいうえに、読んでる間に襲われたら洒落にならないので、普通は仲間がいない限り読まないのだが……
セップク丸は、スポーツマンシップに則るためというよくわからない理由でいきなり冊子を熟読し始めたのだ(まぁ、読んでる間はさすがに大声をあげなかったので、コイツの場合はこの先ずっと何かを読んでた方が逆に安全な気もするけど)。
「………なんだ、これは?」
熟読し終え、優勝する気満々で武器を探していたセップク丸が鞄の中から取り出したものは、小さな腕時計のようなものだった。
その時計にまで、ご丁寧にも説明書が。
「なるほど……ここをこうして……」
説明書を読みながら、書かれた手順の通りに操作する。先ほどの冊子と違い発動のさせ方しか載ってなかったためどんな効果かはわからないが、まぁ使ってみればわかるだろうと思ったのだ。
「うぉぉ!?」
突然目の前の空間が光り出す。
光線で地面でもえぐれたか?と期待して身を乗り出して、
ゴチーン
と、額を何かで強打した。
「って〜……何だよお前」
目の前には、先程までいなかった黄金色の生物(?)が。
そいつはYの字型の何かをくっつけた頭を擦りながら、瞳の無い目を不満げに歪ませていた。
「……どこだ、ここは?おい、イッキはどこ行ったんだ?」
何だコレは。参加者だろうか?
「おい、そこの緑髪筋肉達磨。お前、なんでイッキのメダロッチを゙ぶべらァ!」
とりあえずぶん殴っておいた。
ルールブック(冊子と呼ぶのは味気無いし、【明るく楽しくロワイアル】というのもアレなので、とりあえずこう表記しておく)によると、不意打ちは正当な戦法だそうだから問題無いだろう。
ましてやあちらから不意打ちヘッドパットをかましてきたのだ(自分からぶつかってっただけな気がしないこともないが)。
「ん……?」
とりあえずトドメを刺して優勝への道と共に最多賞を狙おうと歩み寄る。
別に一番多く殺したからといって何かがあるわけではないが、過酷な究極の団体種目で生き残ったうえに最多賞を取るということは、紛れもなく名誉なことだろう。
そうだ!その究極の団体種目に生き残り、更に最多賞を取れば間違いなくMVPだ。
究極の団体種目の主催者が見守る中、究極の団体種目MVPが究極の個人種目切腹を成し遂げる。
まさにスポーツ史上に名を刻む最上級の名誉ではないか!
「……貴様、首輪はどうした?」
それは置いといて、話をセップク丸とメタルビートル━━通称メタビーの話に戻そう。
メタビーに歩み寄ったセップク丸は、メタビーの首に首輪が付いていないことに気がついたのだ。
参加者の資格である首輪を外すのは反則のはずだ。せっかくの究極の団体種目に味噌をつけることになる。
「ふん、仕方ない。裏工作は趣味じゃないが……くだらない不祥事で台無しにされるのも何だからな」
「このヤロ……ッ!」
相手を殺すつもりで歩み寄ると、頭部のYの字型の部分から突然何かが飛び出してくる。
「ふッ!」
だが、そんな子ども騙し(まぁ、実際ちみっ子が免許もなく使用できる程度の物だからホントに子ども騙しに近いものがあるわけだが)が(全くそうは見えなくても一応)あらゆるスポーツを制覇した男に当たるはずがない。
ミサイルすれすれのところに体を滑り込ませ手の甲でミサイルの軌道をずらすという人形破壊者(意味がわからないよい子の諸君はとりあえず「はいはい他雑誌他雑誌」と嘲笑しておいてくれ)もびっくりの技を繰り出し、そのままメタビーの左頬に“いいの”をガツンと叩き込む。
頭部パーツに大打撃を受けたメタビーは、そのまま膝から崩れ落ちた。
(クソ……コイツ、マジで俺を壊す気だ……人間がメダロットと戦うなんてありかよ……)
あまりのダメージに蹲りながらもなんとか打開作を考える。
持ち主のイッキに捨てられたとかなら、まだ仕方ないとは思える(腹いせにシコタマぶん殴るかもしれないけど)。
でも、こんなおかしなところでわけのわからない筋肉達磨に破壊されて人生、もといメダロット生を終えるなんて絶対に御免だ。
「テメェ、男なら正々堂々ロボトルしやがれ!お前の相手はイッキがするから、俺の相手のメダロットを連れて来い!」
とりあえず無駄を覚悟でちゃんとしたロボトルを提案してみる。ロボトルなら、負けるはずがないんだ。
「アンタ頭悪そうだからメダロットのこと教えてやるけど、アンタがその時計・メダロッチで指示を出して、俺みたいなメダロットが戦うんだよ」
足元を指差さされたセップク丸が顔を下げると、確かに自分に支給された時計が落ちていた。
だが、敵だとか味方だとか以前に首輪をつけない反則プレイが許せないセップク丸にとって、そんな主張はほとんど意味をなさなかった。
「で、俺の本来のマスターはイッキって奴でアンタじゃない。アンタが俺と戦いたいならメダロットを用
「ふん、くだらんな……」
メタビーは根本的に間違っていた。
ルールを聞いてない彼は、“メダロットを知らない無知な親父が突然現れた自分を不審者か何かと勘違いし殴りかかってきた”と考えてしまっているのだ。
だから、自分が━━メダロットはメダロット同士で戦うもので、人間とは戦えないのだと言おうとしたのだが………
「つまり貴様は時計と仲間がいないと何もできないということなんだな?
━━スポーツマンなら、己の力だけで勝負することだなッ」
言うと同時にセップク丸は体を捻り、拾いあげたメダロッチを遥か後方へと投げ飛ばす。
そのままの勢いでもう半ターンし再びメタビーと対峙しようとして
「なッ……!?」
みぞおちの辺りに強い衝撃を受け、足が地面から微かに離れた。
「な、な、なんだぁ!?」
仕掛けて来た相手の方が何やら驚きの声をあげているが、セップク丸にその理由を考える余裕はない。
突然みぞおちに頭突きをくらい、そして頭突きをかましてきた目の前の相手は、ニュートンを無視して勢いを衰えさせることもなく水平に飛び続けている。無論その角の先端を腹にめり込ませたままで。
「ぐ……おぉぉおぉぉぉおぉッ!!」
相手が弾丸のように突っ込んで来たことと、腹部を中心に後ろに押されていたこと(飛ばされいたこと、といった方がよさそうなほどだが)を理解するや否や、鍛えあげられたその腕で相手の角をしっかりと押さえる。
そしてそのまま根性で(そう、深い考えや策があるわけでもないのに、“根性あれば何でもできる!”といったノリだけで)数センチほど浮いていた足を右側面から大地に降ろした。
数回ほど跳ね上がるがすぐに地面に引きずるような形となり、そしてそのまましっかりと大地を踏みしめるよう無理矢理体勢を立て直す。
「ンぬおぉぉぉおぉぉおッ!」
奇声を上げ足にしっかりと力を込めるが、徐々に足が地面にめり込み後ろへと押されてしまう。
真っ正面からぶつかれば勝ち目は薄い。
だが、セップク丸は真っ正面から攻めることしか取り柄のない無能とは違う。
「ふんッ!」
あらゆるスポーツ━━つまり、格闘技に関しても極めた男にとって、真っ正面からしか突っ込んでこない者をあしらうくらいは造作もなかった。
左手で角を掴み、右手は相手の腰に回し、相手を地面に叩き付けるように薙ぎ払う。
ガシャンと派手な音を立て、そのまま森の奥へと転げるように姿を消す相手の姿を見つめながら、笑みを浮かべて勝利宣言。
「ふん、最後の頭突きはなかなか良かったが、この宇宙一のスポーツマン・ハラキリ=セップク丸様の敵じゃないな」
そしてそのまま回れ右をすると、荷物を回収しに森の奥へと消えていった。
「うわぁぁあぁぁぁあぁッ!!」
黒。緑。草?土?枝。空。土。
視界に映るものがめまぐるしく変化する。
何やら凄い早さ転がるように移動してると気付いた時には、メタビーの体は宙を舞っていた。
「んなッ………!?」
ほぼ垂直な崖から放り出され、しばらく高度を下げながら進むも、次第に地面が近付いてきた。
砂漠のように見えるが頭から落ちたら即ただの鉄塊へとメダチェンジすることになるだろう。
「ふッ…ざけんな!」
両腕を顔を保護するように交差させ、地面に向けてミサイルをぶっ放す。
狙い通り、爆発のお陰で地面との激突は回避できた。
その代わり、メタビーの体は爆風で更に数十メートルほど吹き飛ばされることとなる。
どうでもいい話なのだが、急な坂道や崖に囲まれた砂漠なんて、普通の島に存在するのだろうか?
もしかすると、この島は大納言がこのゲームの舞台として作り上げたのではないだろうか。
大納言にそんな力があるのか、わざわざつくる必要性があるのか、それは参加者には━━少なくともセップク丸やメタビーにはわからない。
だが、大納言が作った島にしろ元からあった島を使ってるにしろ、砂漠の端の崖付近という不便な場所にその井戸があることに変わりはないし、この疑問は全く意味のないことかもしれない。
本来なら水分を補給できるラッキーエリアとでもいったところなのだろうが、なんと言うか、メタビーは運が無かったとしか言いようがなかった。
つまり、まるでギャグ漫画のようにホールインワン。ガンゴンと音を立てながらメタビーは井戸水の中に紐無しバンジーをしたわけである。
「クソッ………」
予想以上に深い。溺れることはないが、沈む気は更々無いため、残ったミサイルを壁に向けて発射する。
爆風のおかげで後頭部を壁で殴打することとなったが、幸いにもメダルは飛び出さなかった。
「ぐぁッ………いってェ〜………
おい、誰かーッ!」
ミサイルにより生み出された窪みに手をかけ、とりあえず沈まないようにはした。
だが、今の体力で井戸を上りきるのは不可能だろう。
悔しい……でも……今は無様に助けを求めるしかないんだ。
「誰かァーッ!イッキィーッ!」
支給品扱いなため首輪を付けらないというラッキーイベントに、ひょっとしたら運気を全て使い果たしたのかもしれない。
支給された相手が話の通じない脳味噌筋肉の緑髪マッチョマンで、そのうえそいつの無駄に鍛えあげられた遠投能力のおかげでメダロッチは砂漠のエリアまで飛ばされてしまった。
さらにメタビーは知らない事実だが、一度メダロッチから出たらもうメダロッチには戻れないうえに、メダロッチを中心に半径10m程度しか移動できないよう大納言により体に細工を施されていたのだ。
その結果、投げ飛ばされたメダロッチとの距離を10m以内に保とうとするよくわからないが強力な力が発生し、メダロッチについていく形でメタビーまでもが砂漠エリアに飛ばされたというわけだ。
それだけでも不運と言えそうなのだが、さらに運の悪いことに飛んで行くメダロッチと自分との直線距離上にセップク丸がいたため正面から衝突し、そして地面に叩き付けられた挙げ句全身を殴打し崖から身を投げ出すはめとなる。
極めつけは、メダロッチが井戸の桶にホールインワンし、その衝撃で縁に置いてあったその桶は井戸に落下したことだろうか。
傾いたまま入水し、そのまま水に満たされ井戸の底に沈んだ桶に、水に浮かないメダロッチは沈んでいる。
そのことにメタビーは気付いていないが、考えようによっては不幸中の幸いなのかもしれない。
メタビーを引き上げなくとも、桶を━━つまりはメダロッチを引き上げ、そして遠くに移動させるだけでメタビーは井戸から脱出できるのだ。
その際井戸の壁で体を擦りまくることにはなりそうだが。
「おーい、誰かいないのかぁーッ!?」
メタビーは叫び続ける。
先程の緑髪筋肉達磨のような者が来る可能性があることを理解しているのに、大声を出し続ける。
本当は“誰か”ではなく大切な人を呼びたいのかもしれない。
誰かの助けよりも、どんな酷い状況でもなんとかなるという気にさせてくれる大切な相棒との再会を求めているのかもしれない。
だとしたら、メタビーにとって一番の不幸は、唯一無二のパートナーが、このふざけたゲームに乗ってしまったことかもしれない。
【D-01 森の中 14:00頃】
【セップク丸】
[状態]上機嫌 腹部にダメージ蓄積(行動に支障はありませんが、腹部へのダメージは増加します)
[装備]なし
[道具]武器以外の支給品一式
[思考]1.優勝して主催者に切腹を見届けてもらう
2.とりあえず近くの塔を目指す
メタビー(支給品)@メダロット
[現在地]E-02 井戸の中
[状態]満身創意
[思考]1.井戸から出る
2.(本人に自覚はないが)イッキに会いたい