- クロネコとボス◆9pZNwsViFg
- うっそうと生い茂った森の中を、一匹のクロネコが二足歩行で歩いてゆく。
書くまでもなくこのネコも参加者のうちの一匹で、名前はクロ。悪の科学者にサイボーグに改造された、元ネコの雑種だ。
ターミネーターといい勝負のメタルボディでは人前で目立つ事もあり、クレーンゲームで手に入れたクロネコのヌイグルミを着て、常に行動している。
「あの電柱野郎どもが、また、なにかしやがったか?」
クロがいま言った『電柱野郎ども』とは彼の世界に出てくる2人の宇宙人だ。
過去に彼らが焚火の火を強くしようとしてミサイルを放り込んだのが原因で、異世界へとクロとその仲間たちを吹っ飛ばした前歴がある。
だから、今回のこのわけわからんゲームも、電柱野郎どもがまたミサイルやロケット弾あたりを火のなかに放り込んだ爆発で流れ着いた異世界なのだろうかとクロは推理した。
だが、ゲームの舞台へ飛ばされる前にいたあの暗い洞窟の中、自分のように集められた人々のなかに、電柱のように背が高い彼らの目立つ姿はなかった。
そのうえ、あの場違いなオッサン…たしかスルガ大納言だったっけ?が支給品として配った荷物のうちの一つ『写真付き名簿』のなかには電柱野郎どもの写真は、まことに残念ながらなかった。
そのため、ヤツラがこのゲームの原因だという可能性は低い、ヤツラがやりそうな事だがたぶん関係ないだろう。
「クックックッ!それにしても殺し合いとはおんもしれぇ〜!
最近、退屈だったんだ!いっちょ暴れまくってやるぜ!」
心底面白そうな顔で笑っているクロ。彼が着ている黒猫のヌイグルミの口は耳元まで裂けてニヤついている。
きっと、クロが住んでいた北海道の地元の人間は、この笑顔を1Km彼方で目撃していても、即座に船なり飛行機なりと使って被害が及ばないどこか遠くへ逃げるだろう。
そんな見る者の命の危険さえ感じさせる邪悪な笑みだった。
「さ〜って、じゃあいつものアレを取り出すか」
お腹の部分にある収納スペースを空けて、手をいれてガサゴソと漁る。
いつもなら、手を伸ばせばすぐに掴めた『アレ』。きょうはなぜか見当たらない。
それどころか、『アレ』がなくとも、同じ場所に収納している刃物やロケット弾や秘蔵コレクションの感触があるはず。
なのに、収納スペースの中は文字通り『空っぽ』だった。
「ん?」
おかしいな…と思って首を下に向けて中を覗いてみると、その中は本当になにもなかった。
あのことあるごとにでてきた忌々しい予備のニワトリのヌイグルミですらなかった…。
あればあったで何かしらアクションができたのだが、なにもないとなると非常にアクションしづらかった。
「ち!結局あるのはこのザックだけかよ」
それは参加者全員に配られた、『地図、コンパス、着火器具、携帯ランタン、筆記用具、水と食料、名簿、時計、支給品』が入った配給品のザックの事だ。
クロはそのザックを気がつけば背負っていたが、写真付き名簿を見る以外では他に見向きもしなかった。だから、名簿以外をよく確認していなかった。
だが、いつもの武器がないとわかった今、これから狩るのにつかう獲物はこのザックの中にはいっている支給品のみだ。
周りに人やなにかの気配がないか、耳の高性能集音機で探りながら、ザック中身を確認してゆく。
クロの場合、食料は燃料と言うことになっているらしく、それをみたときは「あのオッサンもなかなか気がきくじゃねえか!」と本人が聞いていたら不愉快な表情をする台詞を言った。
「んで、基本の道具と燃料のほかには…と」
そして、肝心の武器はどこにある…とザックをガサゴソと漁り続ける…漁る…ひっくり返す…なにもでてこない…。
ということは、クロには支給品がいきわたっていなかったのか、はたまたいまザックから掘り出したなかのうち、なにかが支給品に該当するものだと言う事だ。
ザックの横に並べられている荷物をもう一度見る。そして、一つ一つ手にとって、普通の道具にカモフラージュされた武器なのかどうかを判断するために、慎重に見てゆく。
「ん〜と、はいっているのは…地図、コンパス、着火器具、携帯ランタン、筆記用具、水と食料のかわりの燃料、名簿、時計、それに…ん、なんだこれは?」
クロが取り出したのはビーダマのようなもの。普通のビーダマと違うのは、そのなかに『楽』と漢字が一文字はいっている。
ビーダマには細かい文字で説明が書かれた紙がセロテープで張られていた。クロはそれを乱暴にとって読んだ。
『心伝玉―他の玉を持っている人とお話しができるよ(ハァトマーク)』とおふざけな説明が書かれている。
「ん?他の玉?」
説明書によると他にもいくつかの玉があるようにも読み取れる。
そこで、再びゴソゴソとザックを逆さまにしたりして、何か出てこないかどうか探る。
すると、穴が空いた袋がボトリとザックから落ちてきた。中を開けてみると、その中には5つの心伝玉が入っていた。
そこに空いた穴は丁度玉が通れるような大きさで、先ほどの『楽』の玉はこの穴から出たようだ。
「これを仲間に渡して連絡を取りあえって事か…」
もちろん、この玉は本来忍びの者にしかつかえない代物だが、これでは今回の参加者のうちでハンゾーとヤエなどの一部の参加者以外につかえない。
つかえない玉はただのビーダマだ。外れアイテムとして支給しても一興だったが、スルガ大納言はこれを通信機として誰でも使えるように改造していたのだ。
この自然が豊富な孤島のなかでは、電話などの参加者同士の連絡手段がI-4の町、E-1の灯台(一部抜粋)の施設ぐらいにしかない。そのため、結構重宝するアイテムだった。
これを持っていれば、どこにいようと、どんな遠距離でも、相手が玉さえ持っていれば自由に会話ができるし、味方に指令や危険を知らせることができる。
そんな便利なアイテムを持っているのに、クロは大きな頭を傾けてがっかりとしている。
それもそのはず、彼にとっていま必要なのは誰かとコンタクトを取れる『玉』ではなく、大暴れするために必要な『武器』だったからだ。
だが、自分の期待に現実が答えないからといって、いつまでもガッカリしているのはクロの性分ではない。
鋼のように打たれ強いのがサイボーグクロちゃんのいいところだ。(なぜなら本当に鋼でできているからさ!)
「ひとまず使ってみるか…」
『楽』の文字が書かれた心伝玉を右手にとって口の前に持っていき、適当に手に取った『水』の心伝玉を持った左手を耳に持っていく。
はっきりとした声が出るように大きく息を吸い込んだ。
「あ〜あ〜、もしもーし」
ガサガサ…バキバキ…
木が折れたか何かして倒れた音が、クロの高性能集音機に入ってきた。
そして、出そうとしたメッセージを、口を閉じてのどの奥へと無理矢理引っ込め、その方向に神経を集中させて、さらに音を拾ってゆく…。
ガサガサと人が森林の腐葉土と時折地面の上に出ている石の上を歩く音。そして、邪魔な木の枝をスパスパと、なにかよく斬れる刃物で斬りながら進んでくる音も聞こえた。
こうゆう誰がドコにいるかわからない殺し合いをしている時に、音が出ると言うことは『誰か』が『音源』にいる証拠となる。
すると、このゲームにのって誰かを殺そうとうろつき回っているヤツラは、その音を聞きつけて、その『音源』にやってくる。
『音源』についたならばその付近を見回して、誰かが通った後があるなら、その足跡や進んだ跡をたよりに追いかけてくる。
そして、背後から攻撃をかけられる。
そんなことも考えずに、身を隠すことができる森の中で木を切り倒して大きな音を響かせた事、足跡がつく石の上を歩いた事、そして、進んだ跡が他人に丸判りの枝を斬りながら進む事。
それらの情報から、いまこの音を出している人間が、訓練をされていないド素人だとわかった。
さ〜て…どうするか…。
ここは参加者の証の首輪を隠して、この島に偶然住んでいたネコのフリをして様子を見るか…。
もし、こんな猫でも無差別で襲ってくるようなやつなら、たとえド素人だろうが喜んで相手してやるぜ!
銀色の首輪を毛で見えないように工夫してから、さっきまで広げていた荷物をザックへ仕舞うことなく、てきとうに腹にある収納ポッドへと放り込む。
そして、四足歩行になり、ただのネコのように一声鳴いた。
「ニャーオ」
++++++++++++++
うっそうと木々が生い茂った森の中で、一人の少年が邪魔な枝を斬りながら歩いてゆく。
考えただけで神経性胃炎になるぐらい遠い未来、地上に残った最後の孤島『サンクルス』のボス。その名はリューク。
このバトルロワイヤルに突如よばれて、ワケもわからないうちに強制的に参加させられて、目の前で人が死んだ…。
サンクルスではまずありえない、なれないシリアスな状況に混乱していた。
つい数時間前に見た、少女の首が吹っ飛んだ事は、幼い頃サンクルスにテラが捨てた病原体が蔓延し自分の母親、友達の両親…次々と倒れていって動かなくなっていったことを思させ、リュークの心の大きな傷を刺激した。
あの時、あの女の子…たしかヨシムネに駆け寄った少年がいた。その少年は、かつての自分のように、目の前でなにもできなかった事をすごく悲しんでいるに違いない…。
こんな想い…誰にも経験させたくなかったし、自分でも経験したくなかった。だからオレはサンクルスのボスとして、ミンナと頑張ってきたのに!
「くそ!」
その二人のことを思い出すとイライラして、胸の内に込上げる不快な感覚を自分のなかから排除したくて、我武者羅に支給された『なんでも斬れる剣』でズバッ!と大木を切り倒した。
直径が50cmはある木が、その一刀でズズズ…と根元と切口の上とでずれていって、そのうち大きな音を響かせて倒れた。
それでもイライラが収まらなくて、乱暴に『なんでも斬れる剣』を振って、自分の進行方向を邪魔するように生えている枝を、手当たりしだいに斬りながら進んでいく。
「ニャーオ」
茂みの中で一匹のクロネコが一声鳴いた。
++++++++++++
「なんだ。ネコか〜」
茂みの中で突如として現れたクロネコに、少しビビってしまったことを、クロネコ相手に隠そうとしているリューク。
クロはやってきた相手の目を見て、相手に戦う気がない事を察知して、敵なら大暴れできたのになんだつまらん…と目を半開きにしてつまらなそうにする。
そんなクロはお構いなしに、リュークはクロネコを抱きかかえようと、両手を広げて近寄ってきた。
なれなれしくされるのが嫌いなクロは、リュークが近寄ってきた距離と同じ距離を遠ざかった。
「おいでおいで!ほら!」
しつこく手を振って呼びかけるリュークに、クロは呆れて小さく溜息を吐いた。
もう、こんな小細工も、演技も、こいつ相手なら必要ねえな…さっさとこんなウルサイヤツとは離れてさっさと町に行くか…そう考えた。
四肢に力を込めて、高い木の枝へと飛ぼうとしたとき、あいかわらずしつこく呼びかける少年が言った。
「オレ、リュークってんだ!
オマエの名前、たしかクロだよな?」
名前をピシャリと当てられて、なぜ初対面なはずの少年が自分の名前を知っているのか、その答えを出すためにクロの頭脳が動き始めた。
その結論はすぐに出て、このゲームの参加者全員に配られた写真付き名簿を見て、この少年は自分の名前を知ったのだとわかった。
たしかに、参加者のうちのほとんどは人間で、ネコなんかが参加しているのはクロ、ミー、マタタビの三匹しかいない。あまりにも印象的だったので、憶えられていたのだろう。
ならば、この先ただのネコとして活動をしても、この少年のほかの参加者にも、一発でクロが参加者だとばれると言うことだった。クロはネコのフリをやめた。
「そうだ。おいらはクロだ」
突然二本足で立ち、人間の言葉を口にしたクロネコ。
シリアスなこの状況についてゆけなかったリュークは、たったいま現れたさらにわけのわからない状況に対応するための脳が追いつかず、しばらく固まってしまった。
十分考え事をしてから、リュークは目の前のクロネコが人間の言葉を喋る事を受け入れた。人間の言葉を話す生物はサンクルスで見慣れていたから、このあたりは受け入れやすかったのだろう。
「おー!猫が喋った!」
(このあたりの反応はオイラの世界と同じだな…)
「そうか、お前もテラから来たのか!」
(前言撤回!やっぱり、なんか微妙に違うな…)
クロがいた地元の人間の反応は、大きな口を開けて叫び声をあげたり、変な外国人は「ジーザス!」と叫んで走っていったり、鼓膜が破れそうな大音量のサイレンを口から出して走ってゆく女性がほとんどだった。
それが、目の前の少年は人間語を話す生き物を、その他にも知っているような反応だった。だから、クロは内心では珍しく思った。
「なあ、オレは仲間を探すために町へいこうと思ってるんだ。クロも来るか?」
リュークがクロにいった。
クロはサイボーグなため、脳さえ破壊されなければ、工具とつかえそうな部品さえあれば、体はいくらでもなおせる。
だから、このゲームを参加するときになくなったいつも使っている修理道具のかわりに、この島で現地調達する必要もあった。
この島でそういうモノがありそうな所と言えば、I-4の位置にある町だ。人家なら本格的な道具がなくても、ドライバーぐらいあるだろうとクロはふんでいた。
「じゃあ、そこまでオイラが守ってやるよ」
「じゃあ、ヨロシク!」
クロネコとボスが手を取り合った。
- 【ネコの散歩チーム】
【F-3 森林 15:00頃。I-4の位置にある町へ移動中】
【クロ@サイボーグクロちゃん】
[状態]健康。
[装備]心伝玉×6@おきらく忍伝HANZO
[道具]荷物一式(食料と水のかわりに燃料が入っている)
[思考]
基本:ゲームには参加しないけど、とりあえず大暴れしたい!
1:向かってくるやつは容赦せず撃つ! ウズウズ!
2:いつも使っているガトリングを探す。
3:面倒だがリュークを連れて町へ行く。そして、もし自分の体が故障した時のために、修理道具をひとそろえしておく。あれば余分な燃料も手に入れたい。
[備考]
※心伝玉はロワを面白くするために誰でも使えるようになっている。
【リューク @海の大陸NOA】
[状態]健康。
[装備]なんでも斬れる剣@サイボーグクロちゃん
[道具]荷物一式
[思考]
基本:ゲームにはのらない。
1:どんな事があってもみんなを守る!
2:…そのまえにみんなを探す!
3:危なそうな人がいたら助ける!
4:ヤル気満々なヤツには逃げる!
[備考]
※リュークが持っている支給品の『なんでも斬れる剣』は原作でミーくんが使っているヤツです。
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