雨合の衆 ◆KbXh9E6JQM
生活の匂いを感じさせない、おそらくはこのゲームの為だけに造られたであろうゴーストタウン。
その外れの一角で、この街に辿り着いたばかりの少年――那岐光、通称『ナギ』――は溜め息をついた。
思うのは京都にいる親友たちのこと、そして何よりも、自分と同じくこのゲームに巻き込まれてしまった愛する者のこと。
「ククル……どこにいるんだ……」
自分と離れて殺人ゲームの中に放り出され、きっと彼女は孤独に怯えていることだろう。
「さびしさと怒りでこわれてしまう」かもしれない。
とにかくククルを探し出さなくては。それがナギの出した結論だった。
しかしククルと離れ、焔の君の力を使うことのできない今のナギはただの小学生に過ぎない。
集められた者たちの中にはいかにも戦闘慣れしていそうな人物や、見たこともない人外の者たちも多く見られた。
この場所では、明らかに自分は弱者の部類に入るだろう。
……そこまで考えたところで、ふと支給品の存在を思い出す。
「せめて、身を守るのに役立つものが入ってればいいんだけどな……」
背中からディパックを降ろし、誰に言うでもなく呟きながらごそごそと中を漁る。
地図や名簿、食料等に紛れて底に転がっていたのは――
「……マイク!?」
そう、それは一見何の変哲もなさそうなワイヤレスマイクであった。
「はぁ……これで助けでも呼べってこと?」
落胆しつつもマイクを手に取り眺めまわしていると、なにか文字が書かれた小さな紙がマイクに貼りつけてあるのに気が付いた。どうやらこれの説明書であるらしい。
そこに書かれていることを信じるならば、このマイクは天候を操作することができるらしい。
「ほんとに?……雨よ、降れ!」
その効果を訝しみつつも、とりあえず試してみる。
ザアァァ……
晴れ渡っていた空にみるみる暗雲が立ちこめ、強い雨が地面を打つ。
「うわ!!ほんとに降ってきたッ!?」
自ら発動させたアイテムの効果に驚きながら、濡れるのを避けようと反射的に民家の軒下に潜りこむ。
「別の天気にした方がよかったかな……」
改めて読み返してみた説明書によると、30分間は雨が降り続けるという。
しかも一度使用すると一時間経つまで発動不能になるので、すぐに雨を止ませることはできないようだ。
この豪雨の中では視界は最悪、ずぶ濡れで歩き回るのも体力の消耗に繋がるだろう。
「晴れ」の対極として安直に「雨」なんて選ぶんじゃなかった。
ナギは、却って行動しにくい状況を自分から作り上げてしまったことを後悔していた。
そのとき。
雨音に紛れて、東の方からこちらに走ってくる足音をナギは耳にした。
心臓が早鐘を打つ。
――どうしよう、もし、ゲームに乗っている奴だったら。
支給品のマイクもしばらくは使えない今、ナギは戦う術も身を守る術も持っていない。
相手が武器や特殊な力を持っていたら、まず太刀打ちできないだろう。足音とともにだんだん人影が近付いてくる。
ここは一旦逃げるべきかも、と反対方向へ走り出そうとした瞬間――
「うゎ!?」
ずるー、べちゃ。
運悪く地面のぬかるみに足をとられて滑り、転んでしまった。
しかも派手に顔面ダイブときたもんだ。
「いででで……」
よりによってこんな状況で転ぶなんて。
足音はもう、すぐ後ろまで来ている。まずい、追いつかれる!!
「やめてッ!殺さないで!!キミを殺したりしようなんて思ってないから!!」
「おい!大丈夫か!?」
取り乱したナギが命乞いをした瞬間、背後から叫び声が聞こえた。
「……え?」
予想外の台詞に戸惑いながら、顔に付いた泥を手で拭い振り向く。
そこにいたのはナギより一つ二つ年下と思われる、真っ赤な髪の少年だった。
「ケガとかしてないか?安心して、オレもこんなひどいゲームに乗りたくはないからさ」
少年は屈託のない笑みを浮かべ、手を差し延べる。
「あ……心配しないで、これくらい何ともないから」
その態度に少々呆気にとられつつも、ナギは答えた。
殺し合いに乗るような奴なら、転んだ僕の心配なんてするはずはない。
むしろラッキーチャンスとばかりにそのまま襲いかかっているだろう。
もしかしたら彼は信用できるかもしれない、とナギは少し安堵を覚える。
「そっか、よかった。オレは斉木陽太、略してキョータな!で、キミの名前は?」
「僕は那岐光、ナギって呼んで」
別に聞かれてもないのに名乗りだすキョータに、ナギもとりあえず名乗り返しておく。
それから二人は、お互いゲームに参加する意思はないこと、大切な人を探していることを話し、
これからの方針について話し合「ぶぇっくしょん!」
……おうとしたところで、キョータが派手にクシャミをぶちかました。
「悪ぃ悪ぃ、雨に濡れたからちょっと冷えたかな?」
「ごめん……そうだ、こんな軒下じゃなくて、この家の中で休めないかな?僕も結構濡れちゃったし」
ナギはそう言いながら、窓から中の様子を覗きこむと、
……窓越しにこちらを見つめる少年と目が合ってしまった。
「…………」
「どした?ナギ」
冷や汗を流して固まっているナギの様子を気にして、キョータも窓を覗こうとする。
そのとき少年が窓を開け、満面の笑顔でこう叫んだ。
「ちんこには〜!」
「ちんこには!」
「…………」
「……………・・・」
にこやかに挨拶をする少年を目の前に、困惑しつつ固まる二人であった。
【I-04 街・北側の民家前 12:20頃】
【ナギ@ククルとナギ】
[状態]やや困惑
[装備]梅雨田雨男のマイク@NOA
・一回の使用で、雨などなら1ブロック中に30分間降らせられる。雷などは対象を定めて一発(連発・広範囲への落雷は不可)
一度使うと一時間経つまで使用不可になります。
[道具]武器以外の荷物一式
[思考]1.なんだコイツ…
2.ククルと合流
【キョータ@フェアプレイズ】
[状態]同じく困惑
[装備]なし
[道具]荷物一式(自身の支給品は確認済み)
[思考]1.悪い奴じゃなさそうだけど…
2.キーン、ゼンと合流(いるかどうかはわからないがボボウも)
3.打倒主催者
[備考]ゼンはキョータの命を狙っている敵キャラですが、
キョータはその事実を知らず、ただのクラスメートと思っています。
【王虎@クラッシュギアT】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]荷物一式
[思考]1.目の前の二人に興味津々