少年は妖刀に魅入られる ◆VazNfXgsdg

一羽のカラスが木々の間を縫うようにを舞う。
青空の下で飛べば、その体色では格好の餌食になってしまう。
それを案じての事だった。
ゲームが始まり飛び続けながら重たいザックを担ぐのは骨が折れたのだろう、羽を休める為に枝に止まる。
「ジンの野郎、さっきまで一緒に居たってのに何処に行きやがったんだ?」
ゲーム開始前に集められた場所まではいつもの様にそばに居た相棒の名前を口走る。
世に名を知られる王ドロボウ、そしてこのカラスこそがその相棒であるキールである。

「とりあえず、支給品とやらを確認しとこうかね。」
担いでいたザックを器用に開けて中身を確認する。
「ん?」
開けると同時に木から落ちる。いや、小枝ごと落下する。
「ギャアアアアアア!!!!!」
ドスン!と大きな音を立てたかと思うと目の前にはちょんまげ頭の少年が刀を持ってこちらを見つめていた。


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キールが落ちる数十分前・・・

何度も何度もフラッシュバックする少女の死に様にイッキは怯えていた。
ガチガチと無意識に歯が振るえ、音を立てる。
このままでは自分もあの少女のように死んでしまう。
メタビーが居れば彼の精神状態も少しは安定していただろう。
しかし、いつも腕にはめているメダロッチもメタビーもそこには居ない。

―おい。

声が聞こえた。だが周りには誰も居ない。
いよいよ本格的に頭がどうにかなってしまったのか。

―こっちだよ、ザックの中を見てみろ。

震える手を抑え、声の通りにザックの中身を見てみる。
どうやって入っていたのか検討も付かないが禍々しい刀が一振り入っていた。
「まさか、これが喋ったのか?」

―クククッ、驚いたかよ。そのまさかだ。

悲鳴を上げて、その刀を手からすべり落とす。
「本当に喋ってるの?」
喋る虫は以前、見たことはあるが無機物の刀が喋る事には流石に驚いた。
―喋っちゃいないがね。だが、お前にはちゃんと俺の声が届くんだ。
―それより、お前殺されるのが怖いんだろう?俺といれば殺される心配は無いぜ。
「ど、どういうこと?」
畳み掛けるように語りかけるその刀の言葉に恐怖に駆られたイッキの心が揺れる。
―つまりな、お前みたいな子供一人じゃ他の参加者に嬲り殺されるのは眼に見えてるだろう?
イッキの奥底であの少女の死と自分が重なり合って見えた。
―だが俺の力がありゃあ、大抵の参加者には抗えるだろうなぁ・・・
(殺されない、死なないんだ、あの子みたいに・・・)
イッキの心は完全に折れた。恐怖とそして妖刀の言葉に囚われて。
―なあ、他の参加者、殺しちまおうぜぇ・・・
「わかった。よろしく・・・」
―俺は十二神刀番外蝙王ムラマサだ。
ムラマサには思惑があった。
それは本来の持ち主、ジャキマルとの接触である。
イッキの恐怖心を憎悪に変えて自らの糧にする。
そうすれば持ち主のジャキマルは自ずと自分の気配に気付き、取り戻す為に向かってくる。
まあ、そのときにはイッキもジャキマルにやられてしまうだろうが・・・
―それまで、人を切る楽しみを教えてやろう。
「何か言った?」
―いいや、何でも。おや、木の上にお客さんが居るようだぜ?

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「カラス?」
参加者かと思えば、落ちてきたのは一羽のカラス。イッキが拍子抜けしたのは言うまでも無い。
「そう!俺はカラス!何の変哲も無いカラス!」
何の変哲も無いカラスが喋るわけが無いのだが
イッキはイッキで喋る刀や喋る虫の存在を知っているせいか喋るカラスでも驚かない様だ。
この雰囲気のおかしい少年に参加者と気取られぬように必至に前掛けで首輪を隠す。
(コイツがあの高さの枝を切ったって言うのかよ!こんなガキが!)
キールの止まっていた木は大きく、確かに子供がジャンプした程度では届かない高さのはずだった。
それはムラマサの鍔の部分が変形し羽のような形になったことで出来る仕業だった。
「どうしようか。ムラマサ?」
―俺は人の生血が吸いてぇ。カラスなんぞ捨てておきゃあいいさ。
考える事が嫌になったのか、イッキは判断をムラマサに委ねる。

ちょんまげ頭の少年は結局、手をかけることなく不思議な刀と共に去っていった。
「助かった・・・みたいだな。しかしあんなやばそうな奴が参加してるのかよ。
 なるべく関わらないようにしてえなあ。早くジンと合流しねえと。」
これが女性であればまだキールの対応も違ったのかもしれない。
だが、イッキが少年であった事が不運なのか、キールはそのまま飛び去っていった。


【B-5 森林】
【イッキ@メダロット】
[状態]健康、精神不安定
[装備]妖刀ムラマサ@おきらく忍伝HANZO
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.殺されたくないので先に殺す
[備考]ムラマサに操られてます
   B-6方面に移動中

【B-5 森林】
【キール@王ドロボウJING】
[状態]健康
[装備]無し
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)、支給品(中身はまだ確認してません)
[思考]1.JINGと合流
   2.困っている女性は助ける
   3.やばい奴とは関わらない


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