ちびっ子のお姉さん◆9pZNwsViFg

アヤメは気がつけばガケの上から、足元に広がる大海原を眺めていた。
あまりにもギリギリの場所に立っていたので、とっさにガケから遠のいた。
その拍子に尻餅をついた。


「あいたたた…」


おしりから落ちたので、ダメージが集中してしまい、抑えながら立ち上がった。
そして、近くにある木陰のキリカブに腰掛け、景色を見た。
遠くの方には、民家らしきものが見えた。空はいい天気…。

ひとしきり景色を見回してから、なぜ自分があんながけっぷちに立っていたのか、考え始める。
本当にいつの間にかだったから、アヤメは一体なにがあったのか、今までの経緯を記憶から探り出した。

事の発端は、そう…いきなり暗い洞窟に集められて、スルガ大納言が現れた。


「そうだ…ヨシムネさまが!」


あの時の光景を思い出すと、いままでボンヤリだった記憶が急に鮮明になった。
ヨシムネさまの首輪から光が出たと思ったら、もうそこには首がなかった。
とかくにいたから、血が降りかかって、それ以降の記憶がなかった。


「ヨシムネさま…」


否定したかった…。
だが、自分の服を注意深く見ると、そこかしこに赤黒い斑点がついている。
斑点はヨシムネさまが殺された事実を、いやと言うほどアヤメに突きつけている。
その小さな小さな斑点を見て、アヤメは涙を流した。
ついて間もない真っ赤な斑点は、さっきその惨劇があったと証明した。


「あそこだけ雨が降ってる」


遠くの街を見てみると、そこだけ雨が降っていた。
ほんの数分前までは雲ひとつなかった上に、今現在でもアヤメがいる所は青空が広がっている。
だが、その街だけに、雲がかかり、雨がシトシトと降り注いでいた。

遠くの方で降る雨をながめていると…また、あのときのような憂鬱な気分になる。

るす番は嫌いだった…。いや…るす番していて帰ってくるはずの人が帰ってこなくなることがいやだった。
幼い頃に、母、フジが戦乱の続く島原で消息を絶ち、母を捜しにいった、父、タジマも帰ってこなくなった。
雨の日に出て行って、必ず帰ってくるはずだった…。だけど、結局二人は帰ってこなかった。

あの時の両親のように…ハンゾーくん、ジャキマルくんともうあえなくなるかもしれない。
ふと、そんな事を考えた。


「いやだ、な」


そんなのいやだ…そんなのもういやだ!

だからわたしは、もう待っていることなんてしない!
待っているのなんて、時間を消費するだけ!
だから、わたしはハンゾーくんとジャキマルくんを探す!

ただ待つのではなく、わたしから探しにいくのよ!

そう決意して、アヤメは腰掛けていたキリカブからスクッと立ち上がる。
その瞳にはかつての、ただ待っていて不安な日々を送るアヤメのものではなく、強い決意が宿った瞳だった。

「といっても、移動するのに丸腰じゃ心もとないわね…」


みんながこのゲームに乗らないとは限らない。きっと、一人だけ帰れる事を信じている人もいる…。
その人に会ってから、戦いの用意をしていたら、まにあわないだろう。
ちょっとまってなんてこと、ぜったいに許してくれない。
だから、周りに誰もいないいまのうちに、戦いの準備を終わらせてから移動した方がいいわね…。

いつも腰にある銘刀、波一文字はゲームの開始前に取り上げられて、手元にない。
そのかわりに、スルガ大納言はたしか、このザックの中に支給品がはいっているっていていた。
その事を思い出して、持っていたザックのなかにある支給品を確認する。


「って…なんなのよこれは…」


かわいいオメメがパチクリと…。


「人形?生き物?
 …もしかしてこれが支給品?」


ザックのなかに他の配給品と混ざってあったのは、淡いピンク色毛を持った丸っこい体に、黒い耳を生やしていて、大きな瞳をした…尻尾のポンポンがとてもかわいい…なんだろ?これ?
両手で抱くようにしてザックから出して、自分の顔の前に持ち上げて、そのモフモフとした感触を確かめる。
そして、その体温を手で感じて、それが生き物だと言う事を知った。

すると、その生き物が手足をばたばたさして暴れだしたので、アヤメはとっさにその生き物を地面へ下ろす。
その生き物はピューと四足を使って、アヤメから5メートルはなれた草陰に走っていった。それを、アヤメが見送る。
そして、草陰から顔だけをのぞかせて、クリクリとした大きな瞳でアヤメの様子を覗うその生き物。

アヤメの足元に紙が残されていた。
それは、その生き物の背中に貼ってあったが、暴れた拍子に落ちてしまったものだった。
それを拾い上げて、紙に書かれた説明書のようなのを読む。

『ポルヴォーラ。火気厳禁の爆弾生物。ちょっとした刺激を与えても爆発する。』



「ポルヴォーラ?あの子の名前かな?」



草陰に隠れてコチラの様子を覗っているポルヴォーラ。
アヤメはにっこりと優しい笑みをうかべた。


「ポルヴォーラ、おいで」


アヤメの背後にあるザックが、ガサリと動いた。


「…いっぱいいたのね…」


おじいさんポルヴォーラ、お父さんポルヴォーラ、お母さんポルヴォーラ、お兄さんポルヴォーラ。
そして、先ほどから草陰でコチラを覗う弟ポルヴォーラ。総勢5匹のポルヴォーラ一家がアヤメの支給品だった。

こんなかわいい生き物も、戦いのために使わないといけないの…そんなのできないよ…。
でも、ここに残していったら、きっとこの子達は他の人たちに殺されちゃうかもしれない。流れ弾に当たってしまうかもしれない。
じぶんが、守った方がいいかもしれない。


「一緒に行こうか」


ポルヴォーラをゾロゾロと連れて歩く。
その先にハンゾーとジャキマルがいるかはどうかはわからない。
でも、アヤメは迷いなく歩き続ける。

【H-6 森林 12:30頃】
【アヤメ@おきらく忍伝HANZO】
[状態]不安。 服によく見ないとわからないほどの血痕がついている。
[装備]ポルヴォーラ一家(5匹)@王ドロボウJING
[道具]荷物一式
[思考]
基本:ロワには参加しない。
1:ハンゾーくんとジャキマルくんを探す。

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