馬と首輪と生首と ◆wKs3a28q6Q
頭が痛い。
特に後頭部辺りの歯車がキリキリと痛みを訴えてくる。
ついでに頭がいつもより重いような気もする。
「う……」
小さくうめき、からくり忍者サスケはゆっくりと瞼を上げた。
木木の間から太陽光が差し込んでいる。
“眩しい”という感覚を生憎持ち合わせてはいなかったが、きっと人間ならそう感じるのだろうとぼんやりと思った。
それからわずかばかり遅れて自分に━━もとい、自分達に降り掛かった災いのことを思い出す。
一人になるまで殺し合いをさせられると言う災いを。
「くっ……早くゴエモン殿とヤエ殿と合りゅ
立ち上がろうと体を起こすも、完全に立ち上がる前に後頭部に強い衝撃が走る。
機械であるサスケの顔は、いとも簡単に彼の体にさよならをすることとなった。
「ひぇぇ〜……」
坂道を首だけで転げながら上げる悲鳴にしてはいささか滑稽だが、きっとものしり爺さんがそういう仕様で作ったんだよとフォローさせてほしい。
慣れつつあったとはいえ、顔と体が分離されたのだ。誰だって泣きそうな声の一つや二つ出すだろう。
ましてや顔中を枝やら石やらで引っ掻くはめになっているのだ。
もっとも、命の危機はほとんどないため崖から強制紐無しバンジーをさせられた某カブト型メダロットよりはマシな境遇だろうが。
首が吹き飛んだサスケだけでなく、サスケの後頭部に拳を叩き込んだドーカイテイオー(ウマ科乙女)の方もあまりの事態に衝撃を受けていた。
先程背後から殴った相手は、ゲーム開始から三時間もたった今になって光に包まれ現れた。
参加タイミングがどう考えてもおかしいため、そうつは大納言とやらの手先なんだろうと思った。今の内ふん縛って情報を聞き出せば英雄になれるうえ愛しのリ
ューちゃんも私に惚れるはず、と。
だから全力を込めた一撃を後頭部にお見舞いしたのだが……まさか、首が吹き飛ぶだなんて。
これでめでたく殺人デビュー。立派な兵器の仲間入りだぜガッデム!
(く……だ、誰も見てないわよね)
キョロキョロと周りを見回し、人気のないことを確認する。
━━オーケー隊長。人っ子一人見当たりません。
━━了解。ただちに隠蔽工作に入る。
体内の首脳会議で隠蔽工作にGOサイン。周りの警戒は怠らず、後ろ足で穴を掘る。
(わ、私は悪くないわっ。だってさっきのは主催者の犬だったんですもの!)
それから十五分くらいして、それなりに大きな穴が完成した。その中に、首なし死体を放り込む。
「………」
どうやら穴が小さかったらしい。明らかに不自然にもっこりしている。
仕方がないので草で覆ったら余計不自然になった。
(………と、とりあえずここを離れなくちゃっ)
隠蔽は諦めたらしく、回れ右して走り出す━━━前に、チラリと横目で死体の側にあったデイパックを見る。
「誰も使わないなら私の物よねぇ〜」
くっくっく、と怪しい笑みを浮かべながらデイパックを拾いあげる人面馬。なんともシュールな光景である。
今度こそ回れ右をし、進路を四時の方向に取ると
全力でその場を離脱した。
テイオーは勘違いしたようだが、首を吹っ飛ばされてもサスケは死んではいなかった。
着脱可能な仕様なので当たり前と言えば当たり前なのだが、この事実を知らない者は首なしボディを見た瞬間死体だと判断するだろう。
首が吹き飛べば死ぬ。そんなことは“エジソンは偉い人”並に常識である。
だからこそ、直前にその事実を知った大納言の配下が、ゲームスタート後に慌ててサスケに“とある細工”をしたのだ。
「あてっ」
首だけで坂の下まで辿りついた。めまぐるしく変わった景色に機械ながらも吐きたい気分になった。
それから、頭の痛みに顔をしかめる。
━━誰かが、ゲームに乗った誰かが襲ってきた。
その事実に、遠く離れたサスケの胸は締め付けるような気持ちになる。
サスケ自身気づいてないが、その表情が悲しみとも憎しみとも取れるものになる。
危険人物は倒さねばならない。
━━倒すって、どうやって?
「こんな残酷な遊戯(げぇむ)に乗る者がいたとは……」
口に出した途端、虚しさと無力感が一気に襲ってきた。
早々に首だけになった自分には、殺人に手を染めようとしている者をどうにかする手段もないのだ。
いったいどのくらい木漏れ日を眺めていただろう。時間にしたらほんの数分かもしれないが、少なくともサスケにはおそろしく長く感じた。
━━ガサッ
やや離れた茂みが音を立てる。
━━ガサガサッ
音は、徐々にサスケの方へと近付いて来る。
音のする方に顔が向いているため、万が一破壊されるとしても相手の確認くらいはできる。
問題はどう殺人犯の特徴を残すかだが。
━━ガサッガサガサ
音はだんだんと大きくなる。
万が一先ほど襲ってきた者の追撃だったらどうするべきか━━やはりなんとかして倒すべきだ。
使えるものがないか周りを観察するが、特に何も見つからない。
━━倒すって、どうやって?
コノママ ナススベモナク 殺サレル クライナラ
気付カレル前ニ ナントカ 先手ヲ
━━倒すって、どうやって?
決マッテイルダロ?
忍ノ世界ジャ常識ダ
━━倒すって、どうやって?
相手ヲ殺ス ソレダケノコトダ
━━ガサッ
(拙者は今何を…)
誰かの近づく音で、サスケは我を取り戻した。
『どのような戦法で倒すか』という意味で考えた『どうやって倒すか』という問いを、どうやらサスケの回路は『どのような形で倒すか』という質問と間違えたらしい。
そして、その答えは、気絶させることでも武器を奪うことでもなく、殺すこと━━
自身の出した答えにゾッっとしながらも、未だ去っていない接近者のことへ思考を切り替える。もちろん戦うという選択肢は消したうえで、だ。
━━ガサガサッ
出て来るのがゴエモンかヤエであることを祈り、音のする方を凝視する。
出て来たのは━━視界に飛び込んできたのは、白く綺麗な足。
「が……ッ!」
ナイッシュー。
見事に蹴りあげられたサスケの首は、クルクルと回転しながら木へと激突した。
ものしり爺さんがしっかりつくってくれた首なので、これしきの衝撃では致命傷なならない。
どうせなら首の接合部分ももうちょっとしっかりしてほしかったが。
「……?」
自分の首に良い蹴りを入れた者の方へと視線を移す。
首輪を付けた少女は、何を蹴り飛ばしたのかすらわかってないようだ。
………首輪?
「あ……」
気付いた。参加者を拘束する悪魔の首輪。
それ、自分の首には付いてないじゃん。だって今首だけだもん。
(そうだ……拙者は……)
ゲーム開始直後、一人だけ最初の場所に戻されて、そして………
そうだ、首を外されると困るからと頭の中に首輪を突っ込まれたんだ。
それもデリケートな歯車への配慮は一切なく、無理矢理ねじ込まれた気さえする。
挙句一人だけ首輪をしてないのもアレだということで首にまで首輪を取り付けられた。
その作業に意外と時間がかかったため、遅れての出発になったのだ。……ひでぇことしやがる。
首輪が頭の中に入ってるため、禁止エリアに顔が入り込んだから死ぬことに代わりはない。自分の居場所もあちらには筒抜けである。
だが、肝心なのはそこではない。
首輪がひとつ、誰の犠牲も無しに手に入る。
これは結構大きなことだ。
首輪の解析をするにしても、首に装着されてないものの方が遥かに解析しやすいだろう。
もっとも、自分の首につけられた首輪はレプリカなどで構造が他の首輪と異なる、という可能性もあるのだが……
それでも、小さな可能性にすがりたかった。
「あの……」
だから、その見ず知らずの少女に声をかける。
彼女が、こんなゲームに乗っていないことを信じて━━━
【F-06 坂道を登り南東(G-07方面)へと逃走中 15:20】
【ドーカイテイオー@海の大陸NOA】
[状態]やや焦り
[装備]不明
[道具]二人分の荷物(自身の支給品は確認済み・サスケの支給品は未確認)
[思考]1.とりあえず全力でこの場を離れて人殺しの事実を隠蔽
2.愛しのリュークと合流
3.死んでたまるもんですか!
4.長いものには全力で巻かれる
【F-06 坂の下F-05との境界線あたり 15:25】
【サスケ@がんばれゴエモン】
[状態]首だけ
[装備]無し。どちらかというと自分が装備品に近い
[道具]なし(テイオーが持って行った)
[思考]1.少女に頼み、体のあるところまで運んでもらう
2.首輪を解析できる者を探し、全員で脱出
[備考]頭の中に首輪。取り出しは不可だがサスケの頭を武器にはできる
坂道を転げ落ちてきたので体の正確な位置がわかりません。“坂道の途中に体があるはず”程度の認識です
自分を襲ったのは誰か、またどんな姿なのかを知りません
無理矢理首輪を突っ込まれてるため思考がおかしくなる可能性があります
※F-06の真ん中ぐらいの不自然に盛り上がった地面にサスケの体は埋まっています
※体を回収した後にサスケの顔をサスケの体に戻すことは可能です
※サスケに声をかけられた少女が誰か、またサスケの誘いに乗るか否かは次の書き手さんにお任せします